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自分に不利な内容の遺言書が作成されてしまった場合の対処法

ご相談事例

 私の弟夫婦と母が同居していました。母は、数年前に足を骨折してから寝たきりの状態で、要介護5の認定を受けており、最近は物忘れなど認知症と思われる症状もみられるようになっていました。そんな中、先月母が他界したのですが、先日、母が亡くなる1週間ほど前に、母の遺産の全てを弟に相続させる内容の遺言が作成されていることが知らされました。

 確かに、弟は同居している間、母の面倒を見てくれていたことには感謝していますが、以前は私も母の面倒をみていたのに、私が全く相続できないのは納得がいきません。

 上記事例のように、一部の者に遺産が渡され、他の相続人に不利な内容の遺言が作成されてしまい、遺言者が亡くなった後に相続トラブルに発展する事例が後を絶ちません。

 そこで、不利な内容の遺言が作成されてしまった場合の対処方法についてご説明します。

1.遺言の作成ルールは守られているか

 ほかの相続人と比べて自分に不利な遺言が出てきた場合、まずはその遺言が有効なものかどうか確認しましょう。

 遺言書はどのような方法でもよいわけではなく、その書き方について、法律上、「法律の定める方式に従わなければ、効力を発揮しない」と明記されています(民法960条)。

 遺言書は、法律で決められたルールに従って書かれていなければ効力がないということです。遺言書には、いくつかの方式がありますが、そのほとんどが自筆証書遺言と公正証書遺言ですので、ここでは、その2つの遺言についてご説明します。

(1)自筆証書遺言

 自筆証書遺言は、①書面に、②遺言書の作成年月日、遺言者の氏名、遺言の内容を、③自署で記入し、④自身の印鑑(実印である必要はありませんが、実印のほうが確実です。)を押印する遺言方式です。

 自筆証書遺言は、作成が簡易で費用もかからない点がメリットですが、紛失・隠匿・改ざんの恐れが高いこと、方式や内容が不完全であることを理由とした問題が生じやすいというデメリットがあるため、ルール違反がないか慎重に検討したほうがよいでしょう。 

ポイント➀ 遺言者によって全文手書きがなされているか 

 自筆証書に遺言が形式的に有効であるためには、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印して作成することが必要です(民法968条)。

 遺言は遺言者が死亡した後に効力が発生しますが、その時点で遺言者はこの世にいないため直接意思を確認することができません。そこで、作成後の改ざんを防ぎ、遺言が遺言者自身の意思で書かれたことを明確にするため、自筆証書遺言では全文手書きが要求されているのです。

  したがって、たとえ文書の一部であっても自書(手書き)以外の方法で書かれているもの、たとえば、ワープロや他人の代筆によって作成された自筆証書遺言は形式上無効となります。

 ただし、民法の改正により、2019年1月13日から自筆証書遺言の用件が一部緩和され、財産目録各ページに署名、押印すればパソコンによる作成や通帳や不動産登記簿のコピー等でもよくなります。

 なお、遺言書の代筆など、遺言者以外の人が遺言書を書くことも認められません。過去の最高裁の判例では、手が不自由な遺言者が妻の介助を受けながら筆記した遺言書が無効とされました(最高裁昭和62108日)。

ポイント② 作成日が特定されているか 

 遺言には、その作成日付の記載が必要です。

 複数の遺言がある場合、作成日が後であるものを優先します(民法1023条)。遺言は遺言者の死後の権利関係を遺言者自身の意思で決定させるためのものですから、死亡時に最も近い意志を尊重するためこのように定められているのです。

 遺言の作成日付は重要な意義を持つことから、作成の日付がその記載によって特定できることが遺言の有効要件となっています。

 したがって、遺言書には日付を記載する必要があります。「平成○年○月吉日」といったように、日付が特定できない記載では遺言書は無効になります。「満70歳の誕生日」という記載は、特定の日付が特定できるため有効ですが、「平成30年12月」、「平成30年初夏」などのように具体的な日が特定できないものは遺言全体が無効になります。

ポイント③ その他

 このほか、自筆証書遺言が無効になる例には次のようなものがあげられます。

  • 押印がないケース
  • 署名がないケース

(2)公正証書遺言

 公正証書遺言は、遺言者が公証人の面前で遺言内容を口頭で述べて、公証人がその内容を筆記して作成します。公証人以外に2人の証人もその場に立ち会います。

 このように遺言書が作成されるまでに、公証人が幾つかの手順を踏んで作成するため、作成ルールに違反して、遺言が無効になることはほぼありません。

 もっとも、これらの作成手順を踏まずに作成された公正証書遺言は無効となります。

 例えば、公証人の説明に対して「はい」と返事をしたとしても、それが遺言の内容を理解し、そのとおりの遺言をする趣旨の発言であるかどうかは疑問の残るところであり(・・・)、この程度の発言でもって、遺言者の真意の確保のために必要とされる「口授」があったということはできないと判断して、公正証書遺言は無効とした裁判例があります(大阪高判平成26年11月28日)。

2.遺言の内容は不明確ではないか

 遺言の方式に従い,遺言者が全文を自書し,日付を書き,署名押印しても,遺言の内容が意味不明だったり、不明確な場合,遺言が無効になる場合があります。

 ただし、遺言は,遺言者の自分の死後の財産処分についての最後の意思を表したものですから,できるだけ尊重されるべきものです。

 したがって,遺言の内容が不明確であるからといって,直ちに遺言を無効とすべきではありません。この点について,最高裁は次のように述べて,遺言内容を合理的に解釈するべきと述べています。

「遺言の解釈に当たっては,遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり,そのためには,遺言書の文言を前提にしながらも,遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許される。」(最判平成5年1月19日)

3.遺言者の遺言能力に問題はないか

 遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力をいいます。この遺言能力がない状態で作成した公正証書遺言は無効となります。

 高齢者の自筆証書遺言については、遺言能力が争われることが多く、近時の裁判例では、遺言能力を欠き無効とされている裁判例も多数あります。

 また、公正証書遺言の無効が問題となる場合は、多くが遺言能力であり、高度の認知症の者が遺言を作成した場合など問題になります。最近は公正証書遺言でも遺言能力を否定して無効とした裁判例が出ています(高知地判平成24年3月29日等)。

 裁判になった場合、以下のような考慮要素を遺言能力の有無が判断されるといわれています。

  1. 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
  2. 遺言内容それ自体の複雑性
  3. 遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯

 そこで、遺言能力を争う場合には、遺言書が作成された当時の医療記録や遺言書の内容、遺言書が作成されるに至った経緯などを調査し、遺言能力の有無について検討することになります。

4.遺言内容が公序良俗に反しないか

 遺言の内容が公序良俗違反により無効となる場合があります。

 社会における秩序や善良な風俗を守るため,公の秩序に反し社会的妥当性を著しく欠く法律行為の効力は否定されます(民法90条)。 

 昔から、不倫相手への遺贈が公序良俗に反して無効になるか否かが問題とされてきました。

 裁判所は、不倫相手への遺贈行為をすべて公序良俗違反と判断するのではなく、夫婦関係破綻の原因、遺言による遺言者と受贈者との関係の変化(親密度を増したか)、生前の財産分与状況、遺産形成への相続人の関与、相続人の経済状況等の具体的な事情を勘案し、①遺贈が不倫関係の維持・継続を目的としているか否か、②遺贈の内容が相続人らの生活基盤を危うくするものであるか否かという点を中心に、特に②に該当する場合には遺贈を無効とするという傾向があります(有効とした裁判例:東京地判昭和63年11月14日、無効とした裁判例:最判昭和61年11月20日)。

 なお、最近、会社の経営者であった者が、会社の株式を含む数億円の全財産について、顧問弁護士であったものに遺贈する旨の遺言が無効と判断された裁判例が出ています(大阪高判平成26年10月30日)

5.遺留分侵害額請求を行う

 以上の1~4は、遺言の有効性そのものを争う方法ですが、遺言の有効性を認めたとしても、遺留分侵害額請求を行うことが考えられます。

 被相続人の財産のうち、一定の相続人に必ず承継されるべき財産を遺留分といいます。

 相続権のない第三者に全ての相続財産を残す遺言や、子のうち特定の一人のみに相続財産の大部分を残す遺言により、自らの遺留分が侵害されていることが判明したときには、遺言によって利益を得ている相続人ないし受遺者に対し、遺留分侵害額請求を行うことができます。

 遺留分侵害額請求権は、相続が開始した事実及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ってから1年(ただし、相続の開始から10年)で時効にかかりますので、早期に手続に着手する必要があります。

 遺留分侵害額請求の方式は決まってはいませんが、時効を止めるためには遺留分侵害額請求の意思表示が到達する必要がありますので、通常は、内容証明郵便の送付により請求することになります。

 また、遺留分侵害額請求権は、1年の時効という行使期間の制限がありますので、遺留分侵害額請求権を行使せずに、遺言無効の訴訟をしている間に遺言が示されてから1年が経過してしまえば、遺留分侵害額請求権を行使できなくなってしまいます。

 そこで、遺言そのものの効力は争いたい場合でも、自分に不利な内容の遺言が作成されてしまい、自分の遺留分が侵害されている場合には、ひとまず「母の遺言は遺言能力なく作成されたものであるため無効である。また、たとえ遺言が有効であるとしても、私の遺留分を侵害するものであるので、遺留分減殺請求権を行使する。」といった内容の通知を行っておくべきです。

6.争う方法

 不利な内容の遺言を作成された場合の争い方としては、(1)遺言のそのものの有効性を争う場合と、(2)遺言は有効とした上で遺留分侵害額請求を行う場合があります

(1)遺言の有効性を争う場合

 方法としては、任意交渉、調停、訴訟があります。

 任意交渉は、相手方に対して遺言の有効性に関する話し合いを求めていくことになります。

 また、「遺言無効確認調停」を相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所へ申し立てることもできます。

 しかし、ほとんどの場合、遺言が偽造されたことや、遺言能力の有無が争いになっている場合ですから話し合いでの解決ができないことがほとんどです。

 このような場合には、調停を申し立てずに、いきなり遺言無効確認請求訴訟をすることができます。

 「遺言無効確認訴訟」は、被相続人の最後の住所地の地方裁判所もしくは遺言執行者の住所地の地方裁判所・遺言によって利益を受ける人の住所地の地方裁判所に対して提起することになります。

(2)遺留分侵害額請求

 遺言が有効だとすると、遺留分侵害額請求を検討することになります。

  • ①裁判外での交渉

 まず遺留分侵害額請求の意思表示をします。
 遺留分侵害額請求には法律上の期間の制限があるため、まずは早急に内容証明郵便による通知書を送付するなどして遺留分侵害額請求の意思表示をすることになります。
 内容証明郵便が相手方に到達した後は相手方と交渉し、交渉が成立した場合には、合意書を作成することになります。

  •  ②調停

 裁判外での交渉が上手くいかなかった場合には,裁判手続を利用して遺留分侵害額請求を行うことになります。
 遺留分に関する事件は,家庭裁判所の家事審判事項ではなく,一般の民事事件として扱われていますが,調停制度のある家庭に関する事件ですので,調停前置主義がとられています。
 そのため、まずは家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
 調停では、調停委員会を間に入れて、事実関係や取り分を明確にし、適正な遺留分侵害額に相当する金銭の支払いが得られるよう話合っていくことになります。

  • ③訴訟

 裁判外での交渉や調停でも合意を得られる見込みがない場合などには、訴訟を提起することになります。
 訴訟では、お互いが自分の主張と立証を行い、それを踏まえて裁判所が適切な遺留分侵害額に相当する金額を判断することになります。

(記事作成:弁護士田島直明)

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