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遺留分を請求するにはどうすればいい?

相談事例

父親が亡くなり、四十九日が終わった頃、兄から長男に全ての遺産を相続させると書かれた遺言を見せられました。生前、私も父との関係は良好でしたので、なぜ、そのような遺言が作成されてしまったのか分かりません。

  私も、父の生前には、介護を手伝ったりしていましたので、全く遺産をもらえないというのはとても納得できません。

 調べたところ、遺留分というものが私も得られるようですので、相手に対して遺留分を求めたいのですが、どのようにしたらよいでしょうか?

 こういったご相談を受けることは少なくありません。
 出てきた遺言の内容が、全ての財産を一人の方に相続させるというものもあれば、ご親族の内一人だけに財産を手渡さないといったものであることもあります。

 このような場合に問題となるのが、「遺留分」です。

1.遺留分とは?

 遺留分とは、相続人が最低限の遺産を確保するために設けられた制度のことで、兄弟姉妹以外の相続人には相続財産の一定割合を取得できるという権利です。遺言によって一方的に遺留分を奪うことはできません。

 そのため、上記の事例のように、一人の相続人に遺産全てを譲るといった遺留分を侵害する内容の遺言をした場合でも、その遺言が直ちに無効になることはありませんが、遺留分を侵害された相続人は、受遺者又は受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する(遺留分を侵害された額に見合うだけの金銭を請求する)ことができます。

遺留分の返還方法が大きく改正されました

 民法改正前は、遺留分を侵害された人は、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害の限度で贈与や遺贈された財産の返還を求める(遺留分減殺請求)とされていました。

 しかし、平成30年の民法改正により、遺留分減殺請求という財産の返還を求める方法ではなく、遺留分侵害額の金銭を請求すると定められました(新民法1042条から1049条)。

 そのため、遺留分権の行使は、遺留分を「減殺」するものではなく、侵害された遺留分に相当する金銭を請求するものとされたため、遺留分権を行使する請求権を「遺留分侵害額請求権」と改正されました(改正民法1046条、1048条等)

 なお、民法改正により、請求を受けた相手方は、侵害額を金銭で支払わなければならなくなりましたので、資金調達のため、裁判所に請求することにより、一定期間支払いの猶予を受けることができます(改正民法1047条5項)。

2.遺留分侵害額請求ができる人は?

(1)遺留分が認められる人

  • 配偶者
  • 子及びその代襲相続人
  • 直系尊属(親)
 

(2)遺留分が認められない人

  • (1)の者であっても法定相続人にならない場合(上位の法定相続人がいる場合や相続権を剥奪されている場合(相続放棄、相続欠格者、相続人として廃除された人))
  • 遺留分の放棄をした人
  • 兄弟姉妹
 

3.遺留分侵害額の範囲

 では、遺留分侵害額はどのように算定するのでしょうか。

 遺留分侵害額に相当する金銭の請求額は、相続人の組み合わせによって遺留分侵害額が変わってきます。

 改正民法では、遺留分権利者個々の遺留分侵害額の算定方法を明文化し(民法1046条2項、1042条)、これに相当する金銭の支払を請できると定めています(同法1項)。

遺留分侵害額の算定式

遺留分侵害額
=遺留分額(基礎財産 × 1/2(法定相続人が直系尊属のみの場合は1/3)
- 遺留分権利者の具体的相続分
- 遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益
+ 遺留分権利者が承継する債務(遺留分権利者承継債務)

(事例)

被相続人の財産として不動産(時価1億円相当)と預金(2000万円)があり、被相続人は相続人である長男と二男と三男のうち、長男にこの不動産全てを相続させる旨の遺言を残して死亡した場合。

 

 二男と三男の遺留分侵害額は、基礎財産1億2000万円×1/2×1/3=2000万円

 二男と三男は、長男に対し、遺留分侵害額に相当する2000万円をそれぞれ請求することができます。

 

4.遺留分侵害額請求の方法

 遺留分の侵害を受けた法定相続人が遺留分侵害額請求をするためには、受遺者又は受贈者(侵害者)に対して遺留分侵害額請求をする必要があります。

 ここでは具体的にどのように進めていけば良いのかご説明します。

Step① 遺言の内容を確認する

 遺留分侵害額請求を行う前提として、遺言内容を把握することが重要です。
 遺言の内容が分からなければ、遺留分を侵害されているのか不明で、遺留分侵害額請求すべきかどうかの判断ができないからです。自分では遺留分を侵害されたと思っても、遺言内容をよくよく精査してみると、実は侵害されていないケースもあります。

 そこで、まずは遺言書を持っている相続人や第三者に対して開示を求めて内容を確認することになります。

 

Step② 相続人の範囲を確定させる

 遺言の内容を確認すると同時に、相続人の範囲の調査することが必要です。
 上記のとおり、相続人の数によって遺留分の割合が変わってくるため、相続人の範囲の調査は必須です。

 調査方法としては、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本や除籍謄本類を取り寄せて、自分が把握していない子どもがいないかなどを確認することになります。

Step③ 遺産の範囲を確定させる

 また、遺産の調査も必要です。遺言書に書かれている遺産の内容が、死亡時には無くなっていたり、死亡時には遺言書に書かれていない遺産が存在する可能性があります。

 遺留分は、被相続人の総財産に対する割合で計算するため、遺言書作成時点と相続開始時とで遺産内容や評価額が変わっている場合には、遺留分侵害の有無や返還請求できる遺産の価額も遺言書の内容だけで判断することはできない場合があります。

Step④ 受遺者又は受贈者に対して内容証明郵便で通知する。

 遺留分の侵害状況が明らかになったら、受遺者又は受贈者に対して遺留分侵害額請求を行いましょう。遺留分侵害額請求をするときには、請求期限との関係でポイントがあるので、必ず以下の手順で進めてください。

 遺留分侵害額請求の方法は、法律によって定められているわけではないので、自由な方式で行うことができます。しかし、遺留分侵害額請求権には請求期限(消滅時効・除斥期間)があるので、確実に期限内に行う必要があり、いつ遺留分侵害額請求をしたのか証明できるようにしておく必要があります。

 遺留分侵害額請求は,相続開始及び減殺すべき贈与または遺贈のあったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効により消滅します(新民法1048条前段)。また、相続開始のときから10年を経過したときは、遺留分侵害額請求権は消滅します(除斥期間・新民法1048条後段)。

 そのため、遺留分権利者としては、相手から消滅時効や除斥期間の反論がなされた場合に備えて、いつ誰に対して、どのような内容で遺留分減殺請求をしたのかを証明できる状態にしなければなりません。口頭で請求しただけでは、その点が証明できず、後で争いになると、時効により消滅していると判断されかねません。

 内容証明郵便を利用すると、郵便局と差出人の手元に請求書の控えが残りますし、郵便局が確定日付を入れてくれます。また、「配達証明」をつけておけば、遺留分侵害額請求書が相手に届いた日付を郵便局が証明してくれるので、後に調停や裁判になったときにも、請求期限内に遺留分侵害額請求をしたことを容易に証明することができます。

 以上のことから、遺留分侵害請求は、よほどの事情がないかぎり、「内容証明郵便」を使って、遺留分侵害者に対し、「遺留分侵害額請求書」を送付しましょう。

 なお、改正民法では、遺言執行者が存在する場合には、遺言執行者にも遺留分減殺請求の内容証明郵便を送付するのが一般的でしたが、改正後は、金銭債権化された遺留分権は遺言の執行としての目的物の処分に対する影響は生じないので、遺言執行者に対する遺留分侵害額請求はできないと考えられます。

Step⑤ 通知後の手続き

 内容証明郵便による意思表示を行った後は、相手方と協議交渉をすることで金銭を支払ってくれるる場合もありますが、そう簡単には返してくれない場合もあります。

 相手方が請求に応じない場合は、家庭裁判所に調停を申し立て、話し合うことが出来ます。話し合いができないことが明らかな事案ではいきなり訴訟を提起することもありますし、家庭裁判所の調停で決着がつかなければ、民事訴訟を提起することになります。

 遺留分侵害額請求を行ったとしても、すんなりと相手方が応じてくれるとは限りません。相続や遺留分を巡る紛争は、金銭的な問題だけでなく親族間の感情的な対立が激しいことが多いことから、調停や訴訟にまで発展することも少なくありません。 

 したがって、遺留分侵害額請求を行う場合は、最初から弁護士に相談の上、訴訟などを見据えた対応をされることをおすすめします。

(執筆者:弁護士 田島直明)

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