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無効な遺言の生かし方

ご相談事例

 3カ月前に父が亡くなりました。相続人は、長男である私と妹の2名です。

 遺品を整理していると実家の金庫の中から、「私が死んだときは、私の所有する土地・建物、預金(銀行名、口座番号等も記載されています)は長男の●●に渡す」と書かれた自筆証書遺言が見つかりました。しかし遺言には父の押印もなく、遺言が無効であることが分かりました。

 ただ、遺言には、具体的に不動産や預貯金などの遺産の内容が明記されていて、それらを私に譲ることが書かれており、生前にも父は、実家の家業を継いだ私に遺産全て譲ると話をしていたこともあり、妹もその話は聞いたことがあると思います。

 しかし、妹は、遺言は無効だから、遺産の半分を分けるよう要求してきています。

 私は、これまで実家の家業に全てを注いできましたので、できれば遺言書に書かれているとおり遺産をもらいたいのですが、遺言が無効である以上、それは不可能でしょうか? 

 自筆証書遺言は、全文、日付及び氏名を自署し、押印しなければなりません(民法968条1項)。

 したがって、上記事例のように押印が無かったりした場合、その遺言は形式不備となり、遺言としては無効です。

 それでは、形式不備の遺言が、遺言者の本当の意思が記載されたとものであったとしても、全く法的に意味を持たないのでしょうか。

 そこで、ここでは、形式不備な遺言の生かし方についてご説明したいと思います。

1.死因贈与契約として生かす。

 まず考えられる方法として遺言書としては無効でも、死因贈与契約が成立している可能性が考えられます。死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生じる贈与のことです。

死因贈与契約が認められるためには

 死因贈与契約で問題になるのは、「受贈者(上記事例では父)が贈与者(長男)に対し、死因贈与を承諾する旨の意思表示をしたか」です。

 上記事例では、父の書いた遺言書には「自分が死んだときには、自宅や預金を長男に渡す」と書かれた遺言書と渡したことが「死因贈与の申込み」に当たる可能性があります。そして、長男側も遺言書の内容を受け入れている(承諾)のですから、父の死亡を条件とする贈与契約(死因贈与契約)が成立することになります。

 したがって、上記事例では、遺言としては無効だが、死因贈与契約としては有効と認められる可能性があります。

 このように、遺言書としては無効でも、「死因贈与」(民法554条)として有効になる場合があることは裁判例でも認められています(東京地判昭和56年8月3日判例タイムズ465号128頁)。

 裁判所の判断は分かれており、死因贈与契約が認められるかどうかはケースバイケースですが、参考までに、肯定した裁判例と否定した裁判例を挙げておきます。

(死因贈与を認めた裁判例)
・広島高等裁判所平成15年7月9日判決
・広島家庭裁判所昭和62年3月28日審判
・東京高裁昭和60年6月26日決定
・水戸家裁昭和53年12月22日審判等

 (死因贈与を認めなかった裁判例)
・仙台地方裁判所平成4年3月26日判決
・大阪高等裁判所昭和43年12月11日判決等
・死因贈与契約を主張する際の注意点

  ただし、死因贈与として有効と考えられる場合であっても、実際には、訴訟等の法的な手続をとらなければならない場合が多いです。

 例えば、上記事例のように、不動産や預金を特定の相続人に相続させるという形式不備の遺言があるとします(相続登記は未了で、預金も払戻し未了の場合を前提とします)。

 このような場合、仮に死因贈与契約の成立が認められるとしても、遺言書を見せて死因贈与が認められると法務局や金融機関に述べるだけでは、移転登記や預金払戻しには応じてくれないことが多いです。

 なぜなら、形式的には無効な遺言である以上、そのような書面に基づいて登記を移したり、預金の払い戻しに応じることは法務局や銀行が他の相続人とのトラブルに巻き込まれてしまうリスクが高いためです(ただし、遺言書の内容等によっては応じてくれるケースもあるようです)。

 また、他の相続人も無効な遺言書で、それが自分に不利な内容であれば、よほど相続人間の関係が良好でない以上、自分からそれが有効と認めることは難しいと思います。

 そのため、不動産について実際に移転登記を行うためには、各相続人に対して、死因贈与を原因とする移転登記請求訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得た上で、法務局に対して移転登記を申請することになります。また、預金について実際に払戻しを受けるためには、金融機関に対して、死因贈与を原因として預金払戻請求訴訟を提起し、勝訴の確定判決を受けた上で払戻しを受けることになります。またこの場合には、通常、金融機関から他の相続人に訴訟告知(民事訴訟法53条)がなされ、他の相続人も訴訟に関与することが多いです。

 ただし、このように訴訟の過程や、訴訟前の交渉の過程で他の相続人との間で和解(死因贈与を認めてもらう)や遺産分割協議が成立して解決するケースもありますので、訴訟をすることが絶対というわけではありません。

2.生前贈与による特別受益の持ち戻し免除の意思表示として生かす

(1)特別受益とは

 特別受益とは、相続人の中に、被相続人から特に利益を得ていた人がいる場合の、その受けた利益のことです。

 特別受益が認められると、その相続人については特別受益分について、受益者の遺産取得分が減額されます。

 例えば、父が亡くなり、相続人が長男と長女の2人がいたとして、その内長男にのみ不動産の生前贈与をしていた場合には、これは、長男の特別受益として、遺産に持ち戻して、遺産分割することになる可能性があります。これを特別受益の持ち戻しといいます。

(2)特別受益の持ち戻し免除の意思表示とは

 ただし、特別受益に当たるとしても、被相続人が、特別受益の持戻し免除の意思表示をしたときには、遺留分の規定に反しない限り、その意思表示に従うことになります(民9033項)。

 つまり、上記の例では、父(被相続人)が、遺言で長男の特別受益分を遺産に持戻さなくてよいという持戻し免除の意思表示をした場合には、持戻しをしなくてよいとされています。

 これは、生前贈与や遺贈をその者の特別な取り分として与えようとする被相続人の意思を尊重するものです。

 持戻し免除の意思表示とは、相続分の前渡しとしてではなく、遺産とは別に特定の相続人に特別の利益を与える趣旨で贈与・遺贈がなされたということを意味します。

 そして、遺贈についての持戻し免除の意思表示は、遺言によってなされる必要があります(遺贈は要式行為であるため)。

 これに対し、生前贈与についての持戻し免除の意思表示については、特別の方式は必要ありません。贈与と同時でなくてもよく、また明示・黙示を問わないとされています。

(3)持ち戻し免除の意思表示として認められた事例

 本件事例のように、形式不備で無効な自筆証書遺言を、生前贈与による特別受益の持ち戻し免除の意思表示を認定するための根拠とすることができる場合があります。

 福岡高裁昭和45年7月31日決定は、三男に対して複数回にわたって、法定相続分をはるかに超える不動産の生前贈与がなされるとともに、全財産を三男へ譲渡する旨が記載された自筆証書遺言が存在する事案において、自筆証書遺言は、作成日の記載を欠くため自筆証書遺言とすることはできないとする一方で、同遺言書の記載内容を根拠の一つとして、三男に対する不動産の生前贈与について持戻し免除の意思表意を認定しています。

 本件の事例でも、妹と遺産分割をすることになったとしても、もし長男が生前父親から不動産を贈与されていたような場合には、特別受益の持ち戻し免除の意思表示を主張し、有利に遺産分割を進めていくことができる可能性があります。

3.まとめ

 以上みてきたとおり、遺言書が作成されていたが、形式に不備があり遺言書としては無効だったとしても、すぐにあきらめることはありません。

 遺言書の内容や作成に至るまでの事情等の場合によっては、その書面を生かして、自分に有利に生かすことができます。

 もっとも、死因贈与契約の成立を主張するにも、特別受益の持ち戻し免除の意思表示を主張する場合には、それが認められるかは、過去の裁判例を踏まえながら検討しなければなりませんので、相続問題に精通した弁護士に相談した方がよいでしょう。

 また、他の相続人が、遺言の内容を争う姿勢を見せている場合には、訴訟等によって解決しなければなりませんので弁護士の力を借りなければ対応は難しいでしょう。

 当事務所では、これまでに本件事例のように無効な遺言書にかかわるご相談や事件対応を行っておりますので、お困りの方はご相談ください。

(記事作成:弁護士田島直明)

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