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任意後見契約

ご相談事例

 私は、70代の高齢者です。私は独身で兄弟はいますが、疎遠になっています。今は、健康ですが、将来、自分が認知症になってしまった場合などには、頼りにできる親族はいませんので不安です。

 最近、役場の方から任意後見という制度を使ったらどうかとのアドバイスを受けました。
 任意後見とは、どういった制度なのでしょうか。

1.任意後見とは

 任意後見制度とは、本人の判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に、後見事務を任せる人と後見事務の内容を契約で定めておく制度です。

 特徴は、本人の判断能力のあるうちに契約を交わしておく点です。

 任意後見契約は、本人の判断能力が十分な間に、後見事務を任せる人や代理権を設定する範囲を本人の意思に基づいて決めることができる点で法定後見制度よりも本人の意思が尊重された制度ということができます。

 また、任意後見契約書は必ず、公正証書で作成しなければなりませんので、一般的な財産管理契約とは異なります。

2.任意後見契約利用の流れ

Step1.任意後見制度の利用の必要性を考える

 今は元気だが、将来自分の判断能力が落ちた時のことが心配になり、支援を受ける必要があるか考える。

Step2.支援して欲しい内容を決める

 任意後見の必要があると考えれば、つぎに、自身の判断能力が低下したときにどのようなことを手伝ってもらいたいのか、これからのライフプランに沿って委任する内容を決めます。

 例えば、「在宅でケアを受ける」「施設でケアを受けるならどの施設がいいのか」など、自身のライフプランを元に、支援してもらう内容を決めましょう。 

Step3.任意後見人を決める

 あなたのライフプランサポートをしてくれる信頼できる人を任意後見人として選ぶことになります。一般的には、家族や弁護士や司法書士などの専門家などが適任ですが、あなたのライフプランやどう生きたいのかという想いを、腹を割って話し合える人物が望ましいでしょう。

Step4.任意後見人(受任者)との契約締結

 将来判断能力が不十分になった場合、誰にどのような事務をしてもらいたいかと決めて、後見人になってもらいたい人と任意後見契約を締結します。

 契約は、原則として、本人の意思を最大限尊重した内容を盛り込むことになります。

Step5.公正証書の作成及び登記

 任意後見契約を締結する際には、公証人に公正証書を作成してもらう必要があります。
 公正証書を作成すると、公証人は法務局に任意後見契約の登記の申請を行います。

Step6.契約の発効・任意後見監督人選任の申立

 本人の判断能力が低下した場合、本人、配偶者、4親等内の親族又は任意後見契約で決められた任意後見人(受任者)が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。

 これにより、任意後見契約の効力が発生します。また、任意後見監督人の選任申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

Step7.任意後見監督人の選任

 家庭裁判所によって、任意後見監督人が選任されます。
 家庭裁判所が選任した任意任意後見人監督人が、判断能力が低下した本人に代わって、任意後見人の業務を監督していくことになります。

Step8.後見開始、監督開始

 任意後見監督人が選任されると、任意後見受任者は、「後見人」として、任意後見契約で定められた後見事務を開始します。
 また、任意後見監督人は、任意後見人の事務遂行を監督します。

3.任意後見契約を締結する際に注意したいポイント

 任意後見契約は3つのパターンがあり、本人の判断能力の程度や、本人がどのようなサポートを望むのかによって使い分けることができます。
 それぞれのパターンに応じた契約締結に注意したいポイントをご説明していきます。

①将来型

 本人の判断能力が十分なうちに将来に備えて任意後見契約を結んでおくもの。

問題点

 任意後見契約を締結した時点では本人の判断能力に問題がないので、同契約を締結してから、実際に任意後見が発効するまでの間に長い時間が空いてしまうことがあります。

 そうした場合、時間の経過により、本人と受任者との間の信頼関係が失われてしまったり、両者が疎遠になってしまったり、適切なタイミングで任意後見監督選任の申立てがなされない可能性があります。

対策

 受任者と本人が定期的に面談するなどして本人の状態を締結に把握しておく必要がありますので、任意後見契約とともにホームロイヤー契約(見守り契約)を締結したり、本人に日常生活自立支援事業を利用してもらう、といった対策があります。

 見守り契約は、本人と任意後見受任者の間で締結する契約で、受任者が本人に定期的に面談したり、電話をしたりして、定期的に面談するなどして本人の生活状況や心身の状況を把握し、本人の判断能力が不十分な状態になった場合には、後見監督人選任申立を行うことを主な内容とする契約です。

 日常生活自立支援事業とは、本人が社会福祉協議会と契約することにより、低額な費用で福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理の援助、書類等の預りサービスという支援が受けられる制度です。

 これらを併用することで、本人の現状を適切に把握することが可能となりますので、任意後見監督人選任のタイミングを逃すことがなくなります。

②移行型

 将来判断能力が不十分になった場合に備えて、任意後見契約を結んでおくとともに、同時に財産管理委任契約を結び、判断能力が十分なうちから財産管理を行ってもらうもの(判断能力が十分なときは、委任契約でサポートし、判断応力が不十分になってからは、任意後見契約へ移行するというもの)。

問題点

 受任者からすれば、任意後見が発効してしまうと任意後見人が選任されて、自分の受任事務をチェックされてしまいます。そこで、任意後見監督人の選任をせず、受任事務をチェックする人が事実上いないことをいいことに、管理財産の私的流用など不適切な事務処理を行っていたという事例があります。

対策

 移行型の任意後見契約においては、本人の判断能力が不十分な状態になった場合には、受任者に任意後見監督人選任の申立てを義務付ける規定にしておくことが有用です。

③即効型

 すでに本人の判断能力が低下している場合に、任意後見契約を結んで直ぐに、任意後見監督人の選任が申し立てるものです。ただ、本人の判断能力がすでに欠けている場合は、契約を結ぶことはできませんので、法定後見制度を利用することになる場合が多いでしょう。

問題点

 即効型の場合は、任意後見契約締結の段階で本人の判断能力が備わっているか、本人が同契約の内容をきちんと理解できているかということが常に問題になりやすいといえます。

 後から契約の有効性が争われる可能性もあるため、任意後見契約を締結できる能力があるような方であれば、即効型の任意後見ではなく、法定後見の内の補助の申し立てを勧める場合もあります。

対策

 後から契約の有効性を巡って紛争になることを回避するという観点からは、公正証書作成する時点で、本人の意思能力の有無、程度に関する診断書を準備しておくことが考えられます。

4.死後の財産管理や死後事務はどうすればいいの?

 本人が亡くなった場合、任意後見契約は終了します。また、任意後見契約は、自己の生活、療養看護、及び財産管理に関する法律行為に関するものに限られますので本人が死亡した後の葬儀や永代供養に関する事項については任意後見契約で定めることはできません。

 その場合、死後の財産管理や、お葬式、お墓などの死後事務などを行う人がいなくなってしまう場合があります。 

 このような事態に備えて、任意後見契約を結ぶときに、併せて死後の財産管理に関する委任契約を締結することが考えられます。

 「任意後見契約および死後の財産管理に関する委任契約公正証書」という契約書を作成し、本人が亡くなられた後に行ってもらいたい事項を定めることができます。

  「元気なとき→判断能力な不十分なとき→亡くなられた後」のすべての場合の財産管理は、「生前の財産管理委任契約+任意後見契約+死後の財産管理委任契約」を結ぶことによりカバーすることができます。 

 任意後見制度は、他の契約と合わせて利用することによって、判断能力が十分な場合から判断能力が低下した場合、さらに死後の管理までサポートすることができ、様々なニーズに対して柔軟に対応することができます。

5.任意後見契約にかかる費用は?

以下は、2019年1月時点の費用です。

(1)公正証書作成の費用

①公正証書作成の基本手数料 1万1000円
 
1契約につき、1万1000円、それに証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算により4枚を超えるは、超える1枚ごとに250円が加算されます。

②法務局に納付する印紙代(登記印紙代)2600円

③法務局への登記嘱託手数料 1400円

④書留郵便の料金 540円

⑤正本謄本の作成手数料  1枚250円×枚数分

 なお、任意後見契約と同時に、財産管理契約や死後の財産管理契約なども締結する場合には、その委任契約について、上記①が必要となり、委任契約が有償のときは、1の額が増額される場合があります。
 
また、受任者が複数になると(共同してのみ権限を行使できる場合は別として)、受任者の数だけ契約の数が増えることになり、その分だけ費用も増えることになります。

(2)任意後見契約書作成の費用

 契約書の作成や公証役場での立ち合いなどを弁護士に依頼する場合には、費用がかかります。
 金額
は弁護士と協議して決定します。

(3)任意後見監督人選任申立費用

 任意後見監督人の選任を申し立てる際には、つぎの費用がかかります。

①収入印紙800円
②連絡用の郵便切手(裁判所ごと異なります)
③登記印紙2000円
※弁護士に申立を依頼する場合には、別途費用がかかります。
※鑑定が必要な場合は、鑑定費用もかかります。

(4)任意後見人、任意後見監督人への報酬

➀ 任意後見人に対する報酬
 任意後見契約で決めた金額です。金額をいくらにするかについては、本人と任意後見受任者との間で決めます。
 身内にお願いした場合には無報酬の場合が多いですが、第三者にお願いした場合には報酬を払うのが一般的です。 

 ② 任意後見監督人に対する報酬
 報酬額は、家庭裁判所が事案に応じて決定しますが、本人の財産の額、当該監督事務の内容、任意後見人の報酬額その他の諸事情を総合して決定されます。
 決定された報酬は、任意後見人が管理する本人の財産から支出されます。


 ちなみに、東京家庭裁判所の「成年後見人等の報酬額のめやす」によると、成年後見人が通常の後見事務を行った場合の報酬は、月額2万円がめやすとされており(管理財産額が1000万円~5000万円までは月額3万円~4万円、5000万円を超えると月額5万円~6万円)、成年後見監督人の報酬のめやすは、管理財産額が5000万円以下では月額1万円~2万円、5000万円を超えると月額2万5000円~3万円とされています。

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