〒105-0003 東京都港区西新橋1-6-13 柏屋ビル9階

受付時間
平日 9:30~20:00
 アクセス  
JR新橋駅 徒歩8分
虎ノ門駅 徒歩3分
内幸町駅 徒歩3分
霞ヶ関駅 徒歩4分
虎ノ門ヒルズ駅 徒歩7分

お気軽にお問合せ・ご相談ください  

03-6206-1078

相続人になりうる人に遺産を一切渡さない手段(相続人の廃除)

ご相談事例

 現在、遺言書をつくりたいと考えています。妻は昨年亡くなり、長男、二男、三男がいます。もともと、妻の生前から三男と暮らしていましたが、妻が亡くなった後から、三男が私に対して、繰り返し暴力を振るったり、暴言を浴びせるようになりました。

 私は、三男と一緒に暮らすことが難しくなり、長男と二男に相談して、現在は、長男夫婦の家に避難している状況です

 遺産には、三男が住んでいる家のほかに、預金や有価証券などがありますが、このような状況では、三男には遺産を一切相続させたくありません。また、遺留分も請求させたくありません。

 遺言により、三男を相続人から廃除することができるとききましたが、どのように書いたらよいでしょうか。また、廃除するにあたって注意点がありましたら教えてください。

1.「一切相続させない」という遺言はだめか?

 夫婦間や親子間で、死んでもあいつにだけは遺産を渡したくない、といった相談をうけることがあります。相続問題は、近しい家族であるからこそ根深いものがあり、抜き差しならない対立関係になっていることも少なくありません。しかし、夫婦や親子でも、一切遺産を渡さないことは簡単ではありません。

 ここですぐに思いつくのが、遺言等で特定の相続人に遺産を渡さないようにする方法だと思います。

 もっとも、法律上、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められています(民法1028条)。そのため、遺言を残す人(ここでは被相続人とします。)が遺留分を侵害する遺言を残しても、相続開始後、相続人から遺留分を請求されれば、その請求は原則として認められることになります。

 ちなみに、遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみの場合は、被相続人の財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1となります。被相続人の財産が高額な場合、遺留分も相当な額となります。

 例えば、子ども2人の家族なら、父親が亡くなった場合には、妻に全体の4分の1、子どもに全体の8分の1の遺留分が認められます。

2.遺留分も相続させない「廃除」

 そこで、遺留分も相続させたくないときは「廃除」という方法が考えられます。

 民法は、被相続人が、相続人になるであろう人(推定相続人といいます。)で遺留分を有する人に、相続人としての資格を失わせる方法として「廃除」という仕組みを用意しています。

(1)廃除の方法

 廃除の方法にはつぎの2つがあります。

① 被相続人が生存中に家庭裁判所に審判を申し立てる生前廃除(民法892条)

② 遺言に推定相続人を廃除する旨を記載し、後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除の審判を申し立てる遺言廃除(民法893条)

 裁判所から廃除が認められた場合、当事者は、審判確定の日から10日以内に廃除審判書謄本及び確定証明書を添付して、区役所等に廃除届を提出する必要があります。

(2)廃除原因(廃除できる理由)

 推定相続人の廃除が認められるのは、遺留分を有する推定相続人に以下の事由がある場合です(民法892条)。

① 被相続人に対して虐待をした場合
 「虐待」とは、家族の共同生活関係の継続を不可能にするほど、被相続人に向けられた暴力や耐えがたい精神的な苦痛を与えることを意味します。

② 被相続人に対し重大な侮辱を加えた場合
 「重大な侮辱」とは、被相続人に向けられた行為で家族の共同生活関係を不可能にするほど、被相続人の名誉や感情を害するものを意味します。推定相続人の言動が「虐待」「重大な侮辱」にあたるかどうかを判断する際には、同人が当該言動をとった理由や責任の所在、一時的なものかどうかといった事情も考慮されます。

③ その他の著しい非行があった場合
 「その他著しい非行」とは、被相続人に対し精神的に苦痛や損害を与える行為のうち、虐待・侮辱に匹敵する程度のものを意味します。「虐待」や「侮辱」とは異なり、著しい非行には、直接被相続人に向けられたもの以外も含まれます。
 例えば、酒食に溺れる、犯罪、遺棄、浪費、被相続人以外の家族との不和などがあげられます。

3.どの程度の言動があれば廃除が可能か

 廃除が認められるかどうかの一般的基準としては、「推定相続人の行為が、被相続人との家族的共同生活の継続を困難にさせるものであるか」というものが多くの審判例で述べられています。

 そして、その他の廃除原因の考慮要素として、推定相続人がそのような行動をとった背景の事情や、被相続人の態度、行動も斟酌するべきであるとも考えられています。実親子の場合、推定相続人の言動が廃除事由に該当するためには、同人の言動が家族間の共同生活を破壊する程度であることが必要とされています(神戸家伊丹支審平成201017日など)。

 廃除が認められれば、その推定相続人は遺留分侵害請求権を行使できなくなるため、その影響は大きいものですので、廃除事由があるかどうかは厳しく判断されています。

 したがいまして、廃除を求める理由が相当程度具体的かつ説得的なものでなければ、裁判所は廃除を認めません。

4.廃除事由の具体例

(1)夫婦の場合
  • 長期にわたる浮気、駆け落ち 
  • 妊娠中絶の強制 
  • 身体的、精神的等のDV(頻度,程度が問題となります。)
  •  被相続人名義の預金の無断払い戻し、着服
(2)実の親子の場合
  • 多額の借金を肩代わりさせたケース(肩代わりした金額,借金をした経緯,取り立てによる精神的苦痛,被相続人の生活状況などが問題となります。)
  •  被相続人に対し暴言を吐いていたケース(ただし、内容や行為期間等の諸事情が考慮されます。)
  •  犯罪・受刑・服役の場合(罪の性質、前科前歴、罪を犯した時点での年齢、被害弁償等のため被相続人が支出した費用負担、謝罪等による精神的負担などが考慮されます。)
  •  親の意に沿わない結婚をした場合(認容された事例には、親の反対を無視して暴力団員と結婚したというものがあります。)
  •  親の介護をしなかった場合(介護を必要とする事情、被相続人・相続人の従来の生活関係、相続人の財産状況などが考慮されています。)
  •  正当な手続きによらずに、被相続人が経営する会社を推定相続人が乗取った場合
(3)養親子の場合
  • 養親の不動産を無断で売却し、移転登記した場合
  • 養親から居宅・賃貸用家屋の贈与など生計上さまざまな配慮をうけておきながら重篤な病状の養親の扶養をしない場合
  • 縁組が形骸化していて、養親子関係の実体がない場合

5.遺言廃除の文例

 遺言書によって相続人の廃除をする場合には、遺言書でその旨を明記し(単に「相続させない」などといった曖昧な表現にしない)、廃除の理由を簡潔に記載しておくとよいでしょう。

 また、遺言廃除では、遺言者が亡くなった後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除の審判を申し立てることを考えて、廃除事由を根拠付ける資料を、遺言執行者に託しておくとよいでしょう。

(遺言文例)

第〇条
遺言者の三男〇〇(平成〇年〇月〇日生)は、遺言者が三男に無償で別紙記載の土地建物を使用させていたにもかかわらず、令和〇年ころから遺言者に対し、繰り返し「あの世にいけ」、「早く死ね。」などと罵倒する言動を浴びせ、度々重大な侮辱を加えた上、さらには、遺言者の身体を殴ったり、家具を投げつけるといった虐待行為をし続けたため、遺言者は、三男を相続人から廃除する。

第〇条
遺言者は、この遺言の遺言執行者として、下記の者を指定する。

住 所 〇〇
職 業 弁護士 
氏 名 〇〇(昭和〇年〇月〇日生)
なお、遺言執行者の報酬は、○○法律事務所の報酬規程によるものとする。

6.相続人の廃除をする際は弁護士への相談をおすすめします

 以上みてきたとおり、推定相続人が、長期間にわたり、被相続人に対してかなり強い負担をかけたり、相当ひどい迷惑行為を繰り返したりしていたケースでは廃除が認められる可能性があります。

 もっとも、単に侮辱したというような場合や、一時的な非行などではなかなか廃除は認められない場合が多いといえます。

  相続させたくない特定の相続人がいて遺言書による相続廃除を行う場合には、将来、廃除の可否を巡って紛争が生じることが予想されますので、廃除事由を具体的に明らかにするとともに、書面や写真などの証拠を保存しておくことが大切です。

 また、廃除原因が認められない可能性が高いにもかかわらず、廃除をすることで、かえって紛争を悪化させてしまうリスクもあるので、廃除するかどうかは慎重に判断すべきでしょう。

 いずれにせよ、廃除が認められるか否かの基準は一様ではなく、周辺の様々な事情も加味して判断されています。

 もし、相続人の廃除を検討される場合は、一度弁護士にご相談することをおすすめします。

 なお、相続廃除が行われた場合や遺言書によって相続人の指定がされている場合は、特に慎重に遺産分割協議を進めるようにしましょう。

 相続が「争族」になりそうなときには、早めに遺産相続に精通した弁護士に相談するようにしましょう。

(執筆者:弁護士 田島直明)

お問合せ・ご相談予約はこちら

お電話でのお問合せはこちら

03-6206-1078
受付時間
平日 9:30~20:00
定休日
土・日・祝日

お問合せはこちら

お電話でのお問合せはこちら

03-6206-1078

フォームでのお問合せは24時間受け付けております。お気軽にご連絡ください。

新型コロナウイルス感染拡大防止の取り組み

当事務所では、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンライン相談(zoom)の実施などの措置を講じております。
詳しくは下記ページをご覧ください。