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令和8年(2026年)6月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、同月24日に公布されました。
平成12年(2000年)に現在の成年後見制度が始まってから、初めての本格的な見直しです。
「一度始めたら一生続いてしまう」「必要のない権限まで与えられてしまう」といった、これまで多くのご家族が感じてこられた使いにくさに、正面から手を入れる内容になっています。
この記事では、成年後見制度の改正の概要について、下記の角度から分かりやすく解説します。
これまでの成年後見制度には、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの類型がありました。改正法では、この3類型が廃止され、「補助」に一元化されます。
条文からも「後見開始」「保佐開始」「成年後見人」「保佐人」といった言葉が削られ、今後は「補助開始の審判」「補助人」といった言葉に統一されます。
判断能力がどの程度低下しているかによって、与えられる権限の内容が自動的に決まってしまう、という仕組みをやめる、というのが改正の出発点です。
現在の後見類型では、成年後見人に財産に関するほぼすべての事項についての代理権(包括的代理権)が当然に与えられます(現行民法859条1項)。改正法では、この規定が削除されます。
改正後は、家庭裁判所が補助開始の審判をする際、同時に下記のいずれかの判断をします。
また、これらの権限を与えるためには、各行為ごとに「具体的な必要性」があることが必要とされました(民法7条・9条)。
ここでいう必要性は、単に判断能力が下がっているから一般的に必要だろう、という抽象的なものでは足りません。ご本人の特性、現に受けている支援の状況、これから予定している行為の内容などを総合的に考えて、家庭裁判所が個別に判断することになります。
つまり、「自宅を売る必要がある」「訪問販売の被害が心配だ」といった、いま現実にある課題に対応する範囲で権限を設定する、という考え方に変わります。必要がなくなった権限は取り消し、新たに必要が生じた権限は追加で申し立てる、という柔軟な運用が想定されています。
※「特定補助人」とは、判断能力を欠く常況にある方について、重要な財産上の行為(民法9条2項各号)全般に取消権を与える、例外的なオプションです。
誰にでも付けられるものではなく、本人が事理弁識能力を欠く常況であることに加えて、特定補助を利用する必要性が求められます。
改正法では、制度の利用を始めるときも、補助人に権限を与えるときも、本人の請求または同意があることが原則とされました(民法7条・9条)。
ただし、本人が同意の意思を表示できない場合は例外とされ、必要性が認められれば開始できます。
これまで、本人の同意が要件とされていたのは補助だけで、後見・保佐では不要でした。改正法は、本人は自ら意思決定できる可能性がある存在だという前提に立ち、できる限り本人の意思を確かめたうえで制度を使う、という考え方を明確にしたものです。
本人の請求または同意が原則になったことで、必要性はあるのにご本人が納得しない、という場面では制度をすぐに使えないことがあります(同意の意思を表示できない場合は例外です)。ご家族や支援者が、ご本人に丁寧に説明し、理解を得るための時間と労力はこれまで以上に必要になります。
④ 「終わることのできる制度」へ ― いわゆる終身制の見直し
これまでの制度の最大の課題は、「一度始めると、本人の判断能力が回復しない限り終わらない」という点でした。
例えば、遺産分割のために後見を申し立てたご家族が、遺産分割が終わった後も後見は終了せず報酬を払い続けることになる、といったことがありました。
改正法では、判断能力が回復していない場合でも、制度を利用する必要性がなくなったと家庭裁判所が認めれば、審判を取り消して制度を終了できることになりました。「必要な時期に、必要な範囲と期間だけ使う制度」への転換です。
⑤ 担い手の交代がしやすくなり、本人の意向を尊重する義務も強化されます。
補助人に不正などの落ち度がなくても、本人の利益の観点から交代させることが相当な場合には解任できる、という新しい解任事由が設けられました。
専門職から親族へ、あるいはその逆へと、本人のニーズの変化に応じて担い手を代えられるようにするものです。また、補助人は、本人に情報を提供し、本人から話を聴くなどの適切な方法によって、事務についての本人の意向を把握するようにしなければならず、把握した意向を尊重しなければならないとされました(民法876条の11)。
「本人の意思を尊重する」という理念が、具体的な手順として条文に書き込まれた点が重要です。
手続の面でも、補助開始にあたっては医師その他適当な者の意見を聴けばよいとされ、鑑定が原則ではなくなりました(家事事件手続法119条1項)。家庭裁判所が市町村長などに本人の生活状況について意見を求められる規定も新設されています(同法120条3項)。
⑥ 任意後見契約も使いやすく見直されます。
令和8年改正では、元気なうちに支援者を自分で決めておく「任意後見契約」についても、次のような見直しが行われました。
| 項目 | これまでの法定後見制度 | 改正後の制度 |
|---|---|---|
| 制度の類型 | 後見・保佐・補助の3類型 | 補助に一元化 (用語も補助人に統一) |
| 権限の決まり方 | 類型ごとに法律で一律に決まる (後見人には包括的な代理権) | 行為ごとの具体的な必要性に応じて 家庭裁判所が個別に設定 |
| 本人の同意 | 補助では必要 後見・保佐では不要 | 原則として本人の請求または同意が必要 (意思を表示できない場合は例外) |
| 制度の終了 | 判断能力が回復しない限り続く | 必要性がなくなれば取り消して終了できる |
| 担い手の交代 | 不正などの落ち度がなければ難しい | 本人の利益の観点から相当であれば交代できる |
| 本人の意向 | 意思の尊重・身上配慮の義務 (抽象的な規定) | 意向を把握する手順と尊重義務を条文に明記 |
| 判断能力の調査 | 後見・保佐は原則として鑑定 | 原則は医師その他適当な者の意見 (特定補助人は原則鑑定) |
| 任意後見 | 監督人の選任で効力発生/監督人は必ず選任/代理権目録の変更は不可 | 開始の審判で効力発生/監督人を選任しない場合もある/目録の変更が可能 |
「相続手続のためだけに使いたい」「自宅の売却が終われば十分」というニーズに、制度が応えられるようになります。
必要性がなくなれば終了できるため、目的を達したあとも報酬の負担が続く、という事態を避けやすくなります。
これまでは、後見が始まると日用品の購入などを除くほぼすべての契約を本人が単独ではできなくなりました。改正後は、家庭裁判所が定めた行為についてだけ補助人の同意が必要になるため、本人が自分でできることは自分で続けられます。
ご本人の尊厳を守るという意味でも大きな変化です。
開始にあたって本人の同意を得ることが原則になり、補助人には意向を把握し尊重する義務が明記されました。「本人のためだから」と本人抜きで物事が決まってしまう、という運用が改まることが期待されます。
補助人による支援期間の見通しが立つようになるため、報酬の総額もある程度予測できるようになります。「何年続くか分からないから申立てをためらう」という本人やご家族の不安が和らぐことが期待されます。
その一方で、与えられる権限の内容が事案ごとに異なることにより、報酬額にも事案ごとの差が出ることが予想されます。
なお、現在、新たな報酬算定の目安と全国同一の基準の報酬助成制度の検討が進められています。
新しい解任事由により、本人との相性や事務の内容の変化に応じて担い手を交代できます。
財産の売却が終わって日常の見守りが中心になった場面で専門職から親族に交代する、といった対応がしやすくなります。
任意後見契約で代理権目録を後から変更できるようになり、監督人の費用が必ずかかるわけではなくなります。
また、予備的な受任者を定めておくこともできるため、「頼んだ人が先に亡くなったら」といった不安にも備えられます。
施行日より前に後見・保佐が開始している場合は、原則としてそのまま従前の取扱いが続きます(附則2条・3条)。そのうえで、次の3つ選択肢が用意されています。
ただし、新しい解任(交代)の規定や本人の意向を尊重する義務の規定は適用されます。
本人、配偶者、四親等内の親族、成年後見人などの請求により、後見開始の審判を取り消すことが考えられます。
もっとも、高齢者虐待への対応が続いている場合や、住まい・食事といった生活の基本的な法律関係を整える対応が終わっていない場合などは、本人保護の観点から相当でないとして取り消されないことになるでしょう。
本人や成年後見人などの請求により補助開始の審判を求めることができます。
このとき、施行日前に後見開始の審判を受けていたことは考慮されません。補助開始の審判をするときは、家庭裁判所は従前の後見開始の審判を取り消さなければなりません。
なお、すでに補助を利用している方は、施行日以後、新しい制度の補助開始の審判を受けたものとみなされます(附則4条)。手続をやり直す必要はありません。
今回の改正は、成年後見制度を「判断能力が低下した方を丸ごと保護する制度」から、「必要な時期に、必要な範囲と期間だけ使う制度」へと組み替えるものです。
施行までにはまだ時間がありますが、これから利用を考えている方にとっては、いま申し立てるべきか、施行を待つべきか、あるいは任意後見や他の支援で足りるのか、という判断が重要になります。
また、すでに後見や保佐を利用しているご家族にとっては、施行後に「終了させる」「補助に移行する」「担い手を代える」という選択肢が生まれます。どの道を選ぶべきかは、ご本人の状況、財産の内容、ご家族の関係によって変わります。
当事務所では、高齢者の財産管理に関するご相談を承っております。
後見制度の利用を迷われている方や現在の後見の見直しをお考えの方は、お気軽にご相談ください。
(執筆者:弁護士 田島直明)