
港区で相続・遺言相談は
弁護士による高齢者の法的問題サポート
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超高齢社会を迎えている日本では、介護を契機とした親族間トラブルが急増しています。
その中でも近年深刻化しているのが「囲い込み」と呼ばれる問題です。
高齢の親の面倒を見ている子どもや親族などが、他の親族との接触を意図的に遮断する行為をいいます。
表向きは「親の介護のため」などとしながら、囲い込みをしている親族が高齢親の財産を自由に使う目的であったり、自分に有利な内容の遺言書を書かせる目的であったり等、高齢親の財産に関係することが多いです。
まさに「相続の前哨戦」ともいうべき行為です。
「兄(姉)が親に会わせてくれない」「親と連絡が取れなくなった」といったご相談が年々増えています。
放置すれば親の財産が使い込まれ、公平な相続が阻害されるだけでなく、親子が交流する機会を奪う人格的権利も侵害される重大問題です。
今回は、囲い込みのパターン・原因・予防策・対処法について裁判例を交えながら解説します。
囲い込みには様々な態様がありますが、主に以下の4つのパターンに分類できます。
最も典型的なパターンです。
高齢者である親を自宅や介護施設に囲い込み、他の親族からの面会・連絡を一切拒絶します。
施設のキーパーソン(連絡窓口)を独占して施設に対して「他の親族に居場所を知らせないで欲しい」「他の家族には情報を教えないでほしい」と指示したり、電話をかけても代わりに出て「親は会いたくないと言っている」と拒絶する、といった行為がよく見られます。
妹が認知症の両親を介護していたところ、両親がアルツハイマー型認知症と診断された後、兄が無断で両親を九州から横浜へ連れ去り、施設名を地域包括支援センターにも教えないよう指示した結果、数カ月間にわたって両親の居場所すら知ることができなかったという事案があります。
▷ 横浜地裁平成30年(2018年)7月20日決定(判時2396号30頁)
親の通帳、キャッシュカード、実印などを自分の管理下に置き、他の親族には一切財産状況を開示しないパターンです。
また、親の生活費や介護費用などといった名目で親の預金を継続的に引き出したり、不動産を無断で処分・名義変更するといった行為が伴うことがよく見られます。
こういったケースでは、親の死後に多額の使途不明金が発覚して、激しい相続紛争に発展するケースが後を絶ちません。
財産の使い込みは後から立証が困難なため、親が存命中に対策を講じることが重要です。
判断能力が低下した親に対し、自分に有利な遺言書を書かせたり、自ら受任者となる任意後見契約を締結して財産管理権を掌握するパターンです。
判断能力が低下した親の状態を逆用し、他の相続人が気づかないうちに法的手続を整えてしまうため、後から遺言の有効性を争おうとしても立証が困難な場合があります。
④ 成年後見申立ての妨害
他の兄弟姉妹が親の財産保護を目的として成年後見人選任の申立てを行おうとすると、これを意図的に妨害するパターンです。
後見申立てには医師の診断書が必要ですが、親を病院に連れて行くことを拒否したり、鑑定に協力しないことで手続きを停滞させることになります。
囲い込みが発生する大きな原因が相続財産への執着です。
親を管理下に置き、他の相続人を遠ざけることで、生前贈与・預金の使い込み・有利な遺言作成などが容易になります。
他の兄弟姉妹が親と接触すれば、上記のような行動が発覚するリスクがあるため、意図的に接触を遮断しようとします。
こうした行為は高齢者虐待防止法が定める「経済的虐待」に該当し、行政による介入の対象となり得ますが、緊急性が低いと判断された場合には実際の介入は限定的です。
親の囲い込みが発生する背景には、兄弟姉妹、親族間の不仲や価値観の対立があることがほとんどです。
親の介護方針や財産管理を巡る衝突が囲い込みの引き金になります。一度対立が深刻化すると「もう口出しさせない」という姿勢から囲い込みへと発展していきます。
「自分だけが親の面倒を見ているのだから、財産をもらうのは当然だ」という意識が囲い込みの背景にあります。
介護の負担が特定の子に偏っている家庭では、介護している者が「苦労の埋め合わせ」として親の財産を引き出したり、相続分を多く取ろうとする心理が働きやすくなります。
一方、別居の兄弟姉妹からすれば「財産を勝手に使っているのでは」という疑念が生じ、両者の不信感から双方の対立が生じることがあります。
親が高齢や認知症などに伴い判断能力が落ちてしまうと、囲い込む子から「他の兄弟姉妹は財産目当てだ」などと吹き込まれた内容を真に受け、自ら外部との接触を拒否するケースもあります。
また、親自身の判断能力の低下に伴って自ら適切な判断や行動をとることが困難になることが囲い込みを生み出す原因となります。
日頃から親の健康状態・財産状況について親族間で定期的に情報を共有できる関係性を作っておくことが重要です。
同居していない兄弟姉妹も積極的に親と連絡を取り、施設や実家への面会を継続することで囲い込みが行われにくい環境が生まれます。特に親の介護が始まる前に財産管理のルールや介護方針を兄弟姉妹で話し合い、できれば書面化しておくことが後のトラブル防止に役立ちます。
上記のとおり介護負担の偏りが囲い込みを引き起こす原因になり得ますので、介護方針や介護費用の負担などについて、できる限り早い時期から親族で話し合っておくことや互いに協力し合う姿勢が重要と感じています。
囲い込みを防ぐ一番の方法は、親が元気な内に将来の介護や財産管理について、できる限り具体的に考えておくことです。
有効な予防策として、親が判断能力を有するうちに任意後見契約や家族信託を活用することが考えられます。
将来の判断能力低下に備えて、信頼できる人物をあらかじめ後見人候補者として指定しておく制度です。
また、弁護士、司法書士などの第三者専門職を後見人に指定することで、特定の親族に権限が集中することが避けられ、囲い込みが起きにくい環境を整えられます。
家族信託とは、特定の目的(例えば、自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付等)に従って、自分の不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。
親が元気なうちに財産の管理を信頼できる家族に委託する仕組みです。また、信託財産の使途・管理状況を複数の家族で共有できる設計にしたり、財産を預かる受託者を監督する信託監督人を置くなどして、特定の子による財産の独占・使い込みを防止することができます。
市区町村の地域包括支援センターは、高齢者の介護、権利擁護、虐待防止などの相談窓口です。
「親に会えない」「財産が不透明に動いている」といった兆候が出た段階で、早期に行政や地域包括支援センターなどに相談することで、必要に応じて関係機関と連携しながら市町村が調査・介入できる場合があります。
「急に親と連絡が取れなくなった」「施設に入ったと聞いたが場所を教えてもらえない」といった異変が生じた段階で弁護士に相談することも重要です。
囲い込みは長期化するほど財産の流出が拡大し、解決も困難になります。
早期相談によって法的手段の選択肢と実効性が広がります。
家庭裁判所の親族間の紛争調整調停は、中立的な調停委員のもとで、感情的な対立関係の解消と円満な親族関係の回復を目指す手続です。
法律で強制される裁判手続と異なり、双方の事情を踏まえた柔軟な解決が期待できます。ただし、相手方が出頭を拒否すれば不成立となる点(強制力がない)は留意が必要です。
親が認知症などで判断能力を失っている場合、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てを行うことで、財産管理を第三者(弁護士・司法書士等の専門職)に委ねることができます。後見人が選任されれば、囲い込んでいる親族が勝手に親の財産を処分することが困難になり、財産の保全が図られます。
ただし、申立てには医師の診断書が必要であり、囲い込みにより親が医療機関を受診できない状態では手続が困難なケースもあります。
また、成年被後見人となるべき者(本人)について鑑定を実施する必要がある場合であっても、本人や他の親族が鑑定実施に反対する場合があります。裁判所からの鑑定への協力を求めても本人や同居等をしている親族の協力が得られず、鑑定を実施することができない場合は、後見開始すべきかどうかの判断ができず、申立てが却下される可能性が高くなります。
後見制度は本人の権利保護のための制度ですが、後見が開始すると本人の行為能力が制限されるという重大な結果をもたらすものですので、その判断は慎重に行われる必要があるとされています。
要件の判断や進行の見極めが複雑なため、弁護士と慎重に検討することをおすすめします。
鑑定を経ずに後見開始の審判をした原審に対し、本人に一定の意思能力が残っている可能性があるとして原審判を取り消した事例があります。
▷ 東京高裁令和5年11月24日決定(判例タイムズ1524号94頁)
囲い込みへの最も直接的な法的対抗手段が面会妨害禁止の仮処分です。
親と面会できない子が裁判所に申し立て、囲い込みをしている親族や施設に対して面会妨害を禁止する旨の決定を出してもらう手続です。通常の裁判(本訴)と異なり、仮処分は迅速な手続であり、認められれば即座に面会実現が可能になります。
横浜地裁平成30年6月27日決定は、囲い込みをしている親族及び入所先の施設に対して面会妨害の禁止を命じました。
その親族が不服を申し立てた保全異議事件において、横浜地裁は「両親はいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために面会交流を希望することは当然であって、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、子は両親に面会をする権利を有する」と判示し、長女と両親との面会を妨害してはならないと判断し、横浜地裁平成30年6月27日決定を維持しました。
▷ 横浜地裁平成30年7月20日決定(保全異議事件 判時2396号30頁)
この裁判例は、子が高齢の親と面会する権利を法的に保護した画期的な判断として、現在も同種事案の先例として機能しています。
なお、仮処分が認められるためには、他の手段(面会の申し入れ、親族関係の調整調停、成年後見申立てなど)を尽くしても、なお面会が実現できないという保全の必要性が必要です。横浜地裁の事案でも、仮処分申立て前に親族間調停・地域包括支援センターへの相談・後見申立てなど、様々な手段が試みられていたことが重視されています。
いきなり仮処分を申し立てるのではなく、段階を踏みながら進めることが重要です。
囲い込みによって親との面会機会を不当に奪われた場合に、囲い込みを行った親族に対して不法行為(民法709条)に基づく慰謝料請求を行うことが考えられます。
慰謝料請求は囲い込みを直接解消する手段ではありませんが、相手方への心理的プレッシャーとなり、囲い込みの解消を促す間接的効果が期待できます。また、「やった者勝ち」にさせない抑止力としての意義もあります。
姉2人が母の居場所を妹に秘匿し5年以上面会を妨げた事案で、親と自由に面会・交流する利益はそれ自体が法的な保護に値し、合理的理由なくこれを侵害することは不法行為に当たるとして、姉2名に対し110万円(内10万円は弁護士費用相当損害金)の損害賠償の支払いが命じられました。
▷ 東京地裁令和元年11月22日判決(LLI/DB 判例秘書登載)
「囲い込み」は、遺産相続をめぐる前哨戦として近年急増しており、放置すれば親の財産が失われるだけでなく、親自身の人格的権利も侵害される深刻な問題です。
裁判所は親と面会する子の権利を法的保護に値する人格的利益として認めており、具体的状況にもよりますが、囲い込みが違法と判断される可能性があります。
囲い込みの防止は「早期対応」に尽きます。親が元気なうちに任意後見・家族信託を活用し、家族間の情報共有の仕組みを整えること。そして問題の兆候を感じたら「様子を見る」ことなく、早期に弁護士へ相談し、仮処分申立て・後見申立てなど適切な法的手段を講じることが重要です。
「やった者勝ち」にさせないためにも、専門家の力を積極的に活用しましょう。